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NAI



夢を見ているときは、どこで「これは夢なんだ」って気がついている。
夢なんだって分かっていても、どうにもできないことだってあるし、なぜか悲しくて泣いてしまうこともある。
夢って、なんだろう。
自分の記憶の再生って言うけど、行った事もない場所を夢にみる時間だってあるし
現実世界に帰って、夢が本当になったことだってある。
結局、夢は、ゆめなのかな。

「起きて、夕霧。朝だって」
篠原春香の一日は、同居人の三条夕霧を起こすことから始まる。朝食は既にできていて、おいしそうな匂いがベッドルームにまで
伝わってくる。本日の朝食は、トーストとハムエッグとオレンジジュース、ポテトサラダ、マーマレードにコーヒーだ。すべて春
香が作ったわけではない。一般的に使われているフードレプリケーターを使ったのだ。
21世紀になって半世紀が過ぎた。いまだに人類は月以外の惑星にはいけない。SFというジャンルが夢物語ではなくなるのは、ま
だまださきのようだった。
同居人の夕霧は、ベッドにかじりついたまま惰眠をむさぼっている。
「夕霧!怠けてたらだめだよ。遅刻でしょ!」
うーん、と唸って夕霧が目を開ける。漆黒の意志の強そうな瞳がまぶたから覗く。春香はこの瞳が大好きだ。
夕霧はもそもそと起き出して、春香に向かって微笑みながら挨拶をする。どことなくぼやっとしているように見えるのは
起き抜けだからだ。
「春香〜。こっちきてよ」
夕霧が甘えたような声を出して、春香を手招きしている。夕霧はまだベッドに座ったままなので、下手すれば春香は夕霧に
引き込まれて、ベッドに逆戻りなんてこともありえる。春香は用心しながら夕霧に近づいた。
「何にもしないよ」
春香があまりにも不審そうな目をしながら夕霧に近づいていくので、夕霧は苦笑して春香のほうに手を差し出した。
その手を春香がのせると、夕霧はおもいっきりじぶんのほうにひっぱり、春香を抱き寄せる。
「やっぱり。何かしたじゃない」
春香は背中をそらして、夕霧の顔を見るために見上げる。顔はすねたように、夕霧をにらんでいる。
「だって、かわいいんだもん」
「何が?」
「春香のその服。似合うよ。」
夕霧は春香を逃がさないかのように、ぎゅっと抱きしめる手に力を込める。
「どうしたの?」
春香はそんな、夕霧の不自然な態度に気がついて、優しく耳元でささやいた。
「夢を見たんだ・・・・・・」
「何の?」
「春香が、線だけになって消えてしまう夢。怖くて、どうすることもできなくて、夢の中で鳴いてた。」
夕霧は不安そうな表情を浮かべて、春香をみつめる。その表情が、頼りない幼子のように見えたので、春香は夕霧に抱きついて
そっと、ささやく。
「大丈夫、消えたりしないよ。ずっとそばにいるから」
ささやきながら、春香は夕霧のほほにキスを施す。
夕霧は、春香を抱きしめている手を緩めるとそのまま、春香をベッドに押し倒した。
「遅刻するよ」
「だって、春香が誘ってきたんじゃない」
「さ、誘ってなんかないでしょ!」
春香は顔を真っ赤にして、夕霧に抗議した。覆いかぶさってくる夕霧を、追い返そうと腕をのばすと、いとも簡単に両手を
封じられて、春香の頭の上に両手まとめて置かれた。
「やだったら、夕霧!」
「うそ、ヤじゃないくせに・・・・・・」
夕霧は、腕の中にいる春香の桜色の唇に自分のをそっと合わせる。最初は触れるだけだったのが、次第に深く長くなっていく。
春香の意識が、キスの所為で朦朧としてきたころ春香の頬に、水滴が落ちる。
春香はびっくりして、目を開けると夕霧が春香にキスをしながら靜かに、涙を流していた。
息が苦しくなり、春香は泣いている夕霧から顔をそらして、短く言葉をつむいだ。
「エフェメラ」
その言葉を聞いた瞬間、夕霧の瞳から光が消えてそのまま人形のように止まった。春香がもそもそと、夕霧の腕の中から
這い出てくると、部屋の扉が開いて白衣のメガネをかけた女性が入ってきた。
「どう?動作チェックのほうは?」
ベッドから起き上がろうとする、春香にむかってメガネの女は話しかけた。
「夢を見たといっていたわ。それに、涙も流していた。」
「変ね。涙を流すようには改良してない。そのアンドロイドは」
「なんにしても、恋人モードはちょっと性格がアレね。バカップル一直線になってしまうわよ」
春香は、クローゼットのなかからメガネの女が衣ているものと同じ白衣を取り出して着た。
「まだ、研究の余地はありそうね。夢を見たとかいってるのなら、それも分析してみないと。」
メガネの女の言葉を聞きながら、春香はベッドに這いつくばっている夕霧をひっくりかえして、ベッドに仰向けに寝かせた。
肌触りといい、表情の豊かさといい、人間に非常に近いロボットだ。
「所長が呼んでいる。早く戻りましょう」
わかった、と春香はうなずいて部屋から出て行こうとしたとき、振り返って動かない夕霧に向かって呟いた。
「線だけになって消えてしまうのは、貴方のほうなのに」







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