![]() jaguar hard pain 第一回 SECOND CRY 前編 |
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いまだに戦争は終わらない。長き戦いの中で、どれだけの人々がその命を奪われていったのか。権力者達は戦争の賛美をしている。いつも、いつの時代も虐げられるのは弱き人々なのだ。 ここは、とある国の田舎町。ここにも戦火の火が飛び火した。元々若者が多かったわけでもない。働き盛りの男達は既に戦争に取られてしまった。それでも国の政策によってもっとたくさんの兵士をよこせという。そして、それに従うべく学徒出陣が決まったとしても、反対の異を唱えるものは誰一人としていなかった。 それが当たり前の事だったのだ。 一人の少年が、いいずらそうにあたりをうろうろと歩きまわりながら側に立っている少女を見つめる。 「なあに?用って」 少女は、この街にしては珍しい絹でできた上等な仕立てのロングドレスを着ていた。この街の有力者の一人娘だ。育ちのいい上品な物腰と、何不自由なく育って来たゆえの優しい雰囲気を備えている。良く梳かれた金糸のような髪の毛は真っ直ぐに地面にのび、腰のあたりで切り揃えられている。成人したらそれは奇麗に結い上げられるはずだ。ぱっちりとした瞳がぬれたように輝いていて、少年を映し出していた。 「あのね、マリー……僕ね」 真っ直ぐ射抜くような少女の視線をよけるように、少年は顔をそらした。 「僕、出征する事になったんだ」 呟くように言った言葉は、風に乗り少女マリーの耳に届いた。 「うそ……だって、私お父様にお願いしたわ。ジャガーだけは、貴方だけはお願いだから戦争には連れて行かないで……て」 「戦争がだんだん酷くなってるみたいなんだ。……明日にはここを出発するよ」 「嫌よ、ジャガー。離れないでって……私のそばにずっといてくれるって、約束しましたのに」 目に涙を溜めて、マリーが訴える。人前で声を荒げて、泣くという事をマリーはしてはならない事として育てられてきた。それが、上流の女の嗜みだと。だから、泣き叫びたいのをこらえて、唇をかみ締める。 マリーは、ジャガーに背を向けてゆっくりと深呼吸をした後落ち着いた声を出そうと努力しながら言葉を紡いだ。 「……こういう場合は、このように言わなければならないのでしょうね……いってらっしゃいませ。ご出世をお祈りしていま……す」 語尾が、ゆれる。マリーの瞳から大きな涙が一粒零れ落ちた。泣くのをこらえるなんて大変だった。マリーの後ろ姿を黙って見つめていたジャガーは、マリーの肩が震えているのに気がついてたまらなくなり、背後からそっと抱きしめた。 「マリー、僕帰ってくるよ。必ず。約束するから。」 マリーの耳元で、息を吹きかけるようにささやく。 「本当?」 マリーが身体の向きを変えて、ジャガーと向きあう。 「本当だよ。帰ってきたら……」 ジャガーはそういって、マリーの桜色の唇にキスをする。 「結婚しようか」 その言葉にマリーがにっこりと笑う。笑った瞬間、目からもう一筋涙が零れ落ちた。 「ちょっと、お父様どういう事ですの?」 ジャガーがいなくなってからもう、3年が立つ。その間マリーは少女から、大人の女性へと成長を遂げていた。腰まで切り揃えた髪をいまは、頭の上で結い上げている。とはいえ、まだ少女らしい面影の残る顔立ちではあったが、十分に美女として通る。 「なんだね、マリー。淑女がそのように声を張り上げて、息を乱して話すことは非常に行儀の悪い事だと何度も教えたはずだ」 「申し訳ございません、お父様。でも、緊急のご用ですの。」 「話してご覧なさい」 「どうして何度もお見合いの話しをお父様は持ってこられるの? 私には心に決めた方がいると何度も申し上げたはずです。その方以外の方との結婚だなんて私望みません事よ」 「それは、ジャガーの事だな」 「もちろんですわ」 「まったく、奴を一番始めに戦場に送り込んで大正解だったな。私の可愛いマリーがあんな身分の低い、いいかげんな男に騙し取られるところだったのだからな」 「どういうことですの?私は、ジャガーを戦場に送らないでとお願いしたはずですわ」 マリーの声がいちオクターブ低くなる。 「ふん、お前がまだ子供だからジャガーがどのような男だったか分からないのだ。それに、第一身分が違いすぎる。子供の約束ゆえ大目に見ていた部分もあるが、もうお前は20歳だ。我が家の繁栄に繋がるような由緒正しいものとの結婚を考えねばならぬ。」 「ジャガーがどのような人柄であったのかは、私が一番存じています。身分の差など対した事ではございませんわ。この家だって100年前はただの農民ですわ。私、ジャガーを待ちますから」 マリーはそういって、書斎を出ていった。 |