jaguar hard pain
第一回 SECOND CRY
後編
「マリー・・・どうして君ここに?」
ジャガーが看護兵の中にマリーの姿を見掛けて声をかけた。多少の驚きと、会えた喜びをない交ぜにして。
「看護兵に志願したの。良家の子女が最前線にいるなんていい宣伝になるって誰も反対をしなかったわ。」
「でも、君の父親は・・・・・・」
マリーはジャガーの口元に自分の右手の人差し指をそっと当てて呟いた。
「そのことは言わないで。おとうさまったら勝手に結婚の話を進めるのだもの」
「だからって看護兵なんて・・・・・・危ないよマリー」
「大丈夫よ、ここが戦場にならなければ。それより貴方が心配だわ。」
「平気さ、僕は」
ジャガーはマリーにしか見せない柔らかい微笑みを見せた。



戦闘はひましに激しくなる。何人もの傷ついた兵士達が軍医のところに運ばれた。マリーは忙しくてなかなかジャガーに会う事ができなくなった。戦況も良く分からないまま日々の事に忙しくて振り返っている余裕がなくなってきた。ジャガーが無事でいるのかも分からないまま時が流れる。
そんなある日、本陣のすぐ近くで爆発音と銃声がこだました。たくさんの悲鳴と雄叫びが交じり合ってマリーの耳に届いた。敵が本陣を急襲してきたのだ。
マリーは動ける人だけでも逃がそうと、天幕を開ける。右手には護身用にと持たされた拳銃を手にして。
ジャガーを追いかけて戦場に行くときめたときに既に覚悟はできていた。こうして殺されるかもしれないという事を。
外はすでに戦場になっていた。たくさんの人々が殺されていく。敵も味方も関係なく。
戦争なんて、なんて無意味な事なのだろう。
どうして同じ人間が殺し合うの?
マリーの声なき声が、戦場を駆け抜ける。そんなマリーの前に一人の男が立ちはだかるった。銃口は正確にマリーの胸に合った。マリーもとっさに男の体に狙いをつけた。お互いが引き金を引くよりはやく男が崩れ落ちた。マリーがびっくりしてあたりを見回すとすぐ後ろにすすにまみれたジャガーが銃を手にして立っていた。銃口から煙がうっすらと立ち昇っている。
「ジャガー・・・・・・」
マリーが駆け寄ると、ジャガーがそっと抱き寄せてささやいた。
「大丈夫か?」
「ジャガーが助けてくれたから」
「逃げよう、ここはもう駄目だ」
ジャガーがマリーを庇うように走り出した。
味方の方は急襲だったという事もあり大半が戦場に倒れたようだ。だんだんジャガーたちの方に流れてくる玉が増え始めた。
何としてでもここから逃げようと必死に走るが多勢に無勢である。すでに四方を敵に囲まれつつあった。
その時マリーを狙って引き金が引かれた。とっさにジャガーがたてになり、マリーを庇った。吹き出た血がマリーのからだに雨のように降りかかった。
「ジャガー!」
最初何が起こったのか分からなかった。震えるひざを押さえつけながら倒れ込むジャガーにしがみついた。
ジャガーの体温が急速に失われていくのが服越しに伝わる。
「いやあぁぁぁっ」
マリーの悲痛な叫び声が雲一つない、痛いほどの青い空にこだました。