SO YOUNG

それはなんて青春 赤く開いた天国への扉さ
誰がなんていっても 君が好きだよ
春はなんかやさしくて残酷



今日は同窓会だ。 何故か会場は東京の超一流ホテルの宴会場だ。
俺、中学は静岡の田舎だったのになんで、こんな豪華な場所で同窓会をしなきゃいけないんだ?
超一流ホテルの割には会費が安いし……。何かあるのか?
「お、吉井久しぶりじゃん」
誰だっけ、こいつ?
社会人二年目。ようやくスーツが板についてきた容貌のサラリーマンだ。 見覚えはあるのに、名前が出ない。
「久しぶり。あのさ、どうしてこんな一流ホテルなの?」
俺たちはホテルのロビーを二人並んで歩く。
「おまえ、知らないの?なんでも、うちのクラスの奴にこのホテルのオーナーの娘がいるんだって。格安で提供してくれたんだと……」
そんないいとこのお嬢様なんか、あの学校にいたのか……?
俺は適当に相づちを打ったり、笑ったりしながら彼女の顔を思い出していた。
明朗快活で、男勝りというより、男そのものといったほうが良いほどカッコ良かった彼女の事を。
今、どうしてるのかなぁ。案外良い女になってるのかな。
それとも、結婚してるとか。 ……思い付かないなぁ。
卒業式の別れの時に見た青い空をバックに楽しそうに笑っている彼女の顔が焼き付いている。
会場に入ってみたら、結構もう人が来ていた。
誰だかわかんないよ。 結構老けちゃった奴とかいるしさ。
俺が一人で浮いてるかな。 みんなまじめそうなサラリーマンって格好だからな。
その分、そのころは見向きもしなかった女どもがよってくるけど。
あいつは、いないのかな?
今日は来てないのかな。
立食式のパーティーだったから、グラスをもらって適当に取りざらに食べ物をとって壁に寄りかかって食べていると、一人の女が入ってきた。
扉が開いた瞬間、何人かが振り返りその姿に釘付けになり異変を感じたほかの奴等がやっぱりそいつから目が離せない。 今や、会場にいる誰もがその女を見つめていた。
もちろん、俺も。
入ってきたのは絶世の美女だ。 言い過ぎって事はないよ。本当にきれいなんだ。 目なんかきれいなアーモンド型で、黒目がちな瞳は濡れたように光っている。処女雪のように滑らかな肌は透き通った色白。唇なんか、桜色をしている。上品な顔立ちで、ものすごく頭がよさそうだ。 肩の出た黒色のシンプルなドレスを着ているが、胸なんか強調しているみたいに大きいし、腰までのラインもきれいな曲線美だ。太股までスリットの入ったドレスを着ていて、そこから覗く足もモデルみたいだ。 すっごい色っぽい格好なのに、それを感じさせない、エレガントな雰囲気の女性だ。長い髪の毛はさらさらで、歩くたびに軽く波を打っている。 来ている服も、つけているアクセサリーもすっごく高級そうなのにブランド物のいやみがない。
ここにいる女達なんか、グッチやエルメスなどの安っぽいブランドに成り下がったものをこれ見よがしにつけてるのに、この女は違う。 どこのブランドだか、分からないけど。それは、彼女に着られるためにあったようにおもえるほどしっくりとしていた
。 彼女は、グラスを受け取ると上品な足取りで女達の輪にはいっていった。
良い女……。
「おい、聞いたかよ。あの女、あのじゃじゃ馬だって」
「あの男女?!うっわ、良い女じゃねぇか……やりてぇ」
周りにいた同級生達が騒ぎ出す。
そうか、彼女か。 ふふ、なんかおかしいなぁ。あんなに良い女になっちゃったのか。
彼女の近くに、男達が群がり始めた。彼女は愛想よくにこやかに答えながらも距離を少しずつ置いているようだ。少し首をかしげて微笑む姿は、どんな罪でも許されそうだ。
まったく、俺は中学の時から彼女が良い女だって知ってたんだぞ。 中学生の時、散々彼女を男勝りだの、男女だの陰口をたたいていた男達を見ながら心の中で呟いた。
今更、そんなこといってもどうにもならないけど。
「体も良いけど、あいつここのオーナーの娘だろ?既成事実さえ作ったら俺はここの次期オーナーか!」
あーあ、馬鹿な男。
俺は女に向かってしっぽを振るのは好きじゃない。女のほうから寄ってきてもらわないとな。
いまだって、何人かの女達が俺に色目を使っている。 今夜はそいつらのうちの誰かを見繕うかな。
「和哉、久しぶりね」
気がつくと、彼女がワイングラスを片手に俺の前で微笑んでいる。卒業式の日に見た笑顔よりちょっとだけ大人になった笑顔だ。
「ああ、変わったな」
「私?」
「そう。話し方とか」
「……ああ、これは仕方がないの」
「おまえがこんな金持ちの娘だなんて知らなかったよ……俺に同情して何も言わなかったの?」
彼女は、首を振って俺の隣に来て壁に寄りかかった。
「私、本当は両親がいないの。二人とも小学生の時に死んだわ」
「え?……じゃあ、結婚したの?」
「やだ、独身だわ……親戚中をたらい回しにされて、中学3年生の時に養子縁組をしたの。ここのホテルのオーナーである財閥の会長とね。……だから東京に引っ越したの」
どこか遠くを見て離す彼女の顔は、中学生の時には見なかった表情だ。
「ごめん……俺、そういえば中学生の時俺の事しか話してなかった……」
片親しかいない俺をどこか同情して欲しくて、慰めて欲しくてあの文化祭の前日、俺の事をずっと話していたんだ。
俺は不幸を売り物にしてたんだ……。
本当は泣きたいのは彼女だったかもしれないのに。
「いいの。最近聞いてるわ。ロビンちゃん」
俺を上目遣いで挑むように見つめながら、にっこりと笑う。 その視線がたまらなくセクシーだ。
「なんだよ、聞いてるの?」
俺の背が伸びた所為かな。少し彼女を見下げる形になる。こういう時背が高いと便利なんだよね。顔を見詰める振りをして実は胸を見ているなんてしょっちゅう。
「和哉、鼻の下伸びててよ。どこを見てるのかしら……?」
俺の視線から逃れるように、体を捩って顔だけ俺に向ける。少し怒ったその顔もかわいい。 中学生の時の面影がまったくないのかと思ったら、そうでもない。ちょっと丸くなったというだけだ。
「私きれいになるように努力してるのよ……あなたったら理想が高すぎだわ」
「ラジオ聞いたの?」
「聞いてるわ……あなただって、すぐに分かった。ラ・ママのころから私いたのよ」
「いってくれたら良かったのに」
くすっと彼女は笑って、ワインを飲んだ。
「その頃の私、不細工よ。だからあなた印象にないんじゃいの?いつも、美女ばっかり侍らせてたものね。……何故か悔しくて、きれいなろうと思ったわ」
自嘲気味に笑う彼女の逃げ道をなくすように壁に手をついて彼女を見下ろす。幸い同級生達は昔話に夢中でこちらに気がついていない。
「ね、今日は泊まるの?」
彼女を俺の腕の中に閉じ込めるようにして、ささやいた。
「ここの最上階のスイートルームは私の専用の部屋なの」
「泊めてくれる?」
「うーん……どうしようかなぁ」
彼女もささやくような声になって、俺を見上げる。目が潤んでいてかわいい……。 「私って、奇麗?そんなに魅力あり?」
いつもの俺だったら、嘘でもなんでも言って都合よくしちゃうけど。こいつにはそんな事通用しないだろうな。
「最高、びっくりしたよ……その体にクラクラ」
少し頭を下げて、彼女の耳元でささやく。
「体、だけ?」
少し体を震わせて、優しい声で彼女は聞き直す。
「顔も、メロメロ」
「顔だけ?」
なお聞き返す、彼女の唇を俺は自分の唇でふさいだ。ほんの一瞬だけ、かすめるようなキス。
好きだったよ。中学生の時。
他に好きな子がいるって、彼女に言って相談に乗ってもらったから、君の事が本当にすきだって気がついたときはもう、遅かったんだ。
好きで好きで、ついに内緒にしちゃった。
「もう、部屋に行く?」
「うん。抱きたい」
俺は彼女の肩を抱いて、宴会場を出た。

「まったく、あの二人ようやくくっついたって感じ?」
「あの二人ができてるなんて、中学生当時みんなの話題の的だったのになぁ」
「どっちに勇気がなかったんだろうな」
「どっちも勇気があったのよ。あの二人文化祭の前日一夜を過ごして何もなかったって伝説があるじゃない。」
「そうそう、離れ離れになるからって、あの娘なんにもできなかったって……!」
「吉井もなぁ、素直じゃないしな……」
後日、そんな事をクラスの奴等が噂していたという事を、俺は知るのだった……。



終わりのない青春 それを選んで絶望の波に飲まれても
ひたすら泳いでたどり着けば
また何か覚えるだろう


誰にでもある青春 いつか忘れて記憶の中で死んでしまっても



あの日僕らが信じたもの
それは幻じゃない
SO YOUNG