汝の日常を愛せよ--so young--




母一人、子一人だった僕には兄弟がいることが小さいころうらやましかった。
自然と年の近い従兄弟には本当の兄貴のように慕っていた。
だから、僕が従兄弟の兄貴と同じ、東京の学校に行くといったとき母はちっとも驚かなかったんだ。


僕が通うのは、従兄弟の兄貴が通う都立桜林学園。都内でも有数の進学校だ。
明確言って、中学の進路担当の先生には合格する見込みはないと言われたほどのレベルの学校だ。
・・・・・・単に、僕の頭がわるいだけなのかもしれないけれど。
思い起こせば不運の連続だった。受験の日は大雪が降り、試験会場までたどり着けるかわからなかったし、
合格通知は郵便事故で遅れ、挙句の果てに、入学式前日の入院・・・・・・。
おかげで、僕は高校に入学するのに一ヶ月も遅れてしまった!

・・・・・・ちくしょうっ負けるもんか!

静岡から上京してきて、身を寄せたのは昨年結婚したばかりの新婚早々の従兄弟の兄貴の家に転がり込んだ。
どうせ、高校には寮があるからね、長期休暇のときにすごせればいいか。って思ったんだ。
そうしたら、麻理ちゃんが(従兄弟の結婚相手だ)つぶらな瞳で、にっこり微笑みながらこういうではないかっ
「ねぇ、和君、どうせだから、寮に入らないで三人でくらしてもいいのよ?」
本当は、そうしたかったんだ。
兄貴は僕を弟みたいに扱ってくれるし、麻理ちゃんは本当に、かわいいんだ。
中学の同級生のうるさい女子とは違う、清楚でおだやかで、好みのタイプだった。
一目ぼれだったんだけど、そのときにはもう、兄貴とは婚約していたから、あっさりと僕の初恋は終わった。
だけどね、そんなにしょっちゅう一緒にいるとなると、忘れられるものも、忘れられなくなっちゃうの!
わかるでしょ?!
・・・・・・そう、だから忘れるために、寮に入ることにしたんだ。

「・・・・・・というわけだからして、吉井君の場合は一ヶ月のハンディがあるが、精一杯学生生活をおくってほしい」
学長室で、ありがたくもかったるい学長の話が、ようやく終わった。
だいぶ頭の後退した学長が、まだ話を続けようと口を開く。
正直うんざりだ。
「それでは、きみに紹介しておこう」
タイミングよく、学長室の扉が開いて二人の学生が入ってきた。
「こちらが、桜林寮の寮長で、二年生の広瀬洋一君だ。となりが生徒会長で、二年生の三国義隆君だ」
背の高いほうが、人懐っこい笑顔で「よろしく」といいながら、手を差し出す。寮長の広瀬先輩か。
となりの、背の低いほうが生徒会長の三国先輩ね。覚えたぞ。
「二人とも、桜林寮で生活している。二人を兄貴だと思い、頼りなさい」
「入学早々一ヶ月も入院なんて、災難だったね。これから僕たちが寮まで案内するよ」
広瀬先輩が、絵に書いたような笑顔を見せて僕と連れ立って学長室から出た。
並んで歩きながら、広瀬先輩は気安く、僕にいろいろと話しかけてきた。
「一ヶ月も入院してたけど、病気は何?」
「胃潰瘍です」
「へぇ。たいへんだねぇ」
なんか、どこかよそよそしい会話が僕と広瀬先輩の間で繰り広げられる。
最初なんて、緊張してこんなものかもしれない。
でも、なんか広瀬先輩て、兄貴みたいな感じだ。
「さ、ここが桜林寮だ。」
広瀬先輩が、大きな玄関の扉を開いた。
古い建物のにおいと、汗のにおいが混じった不思議なにおいが、漂っている。
今日から僕が暮らすことになる、僕の・・・・・・家。
「えーと、君の部屋は201号室だね。」
三国先輩が、下駄箱からスリッパを取り出して玄関脇の階段を上がっていった。
木造の桜林寮はなんだか、故郷ですんでいた僕の家を彷彿とさせて、不思議と嫌じゃなかった。
「ルームメイトが、お待ちかねだぞ」
階段を上ってすぐのところにある部屋の扉に、201号室とかかれたプレートがついている。
そうだ、寮は二人暮しだからすでにルームメイトが一ヶ月ここに住んでいたんだ。
どんなひとだろう・・・・・・。
僕は、おそるおそる部屋の扉を開いた。
嫌なやつじゃなきゃいいんだけど。

扉を開けると、満面の笑みを浮かべた色白の可愛い女の子が立っていた。

僕は、あわてて扉を閉める。
振り返って、背後に立っている先輩たちにいった。
「いま、女の子がいませんでした?」
「あ、ああ・・・・・・あいつね」
平然と広瀬先輩が、201号室の扉を開ける。
僕がみたのは、幻ではなくてやっぱり、色白の可愛い女の子が僕のほうをみて微笑んでいる。
「菊地英昭っていうんだ。外見は女の子みたいで可愛いだろ」
「なんだ・・・・・・じゃあ、男なん・・・・・・」
「いや、本当に女の子なんだ」
ええ!
僕が、声にならない悲鳴を上げて、とんでもない事実をつぶやいた三国先輩に詰め寄る。
「彼女はね、とある事情があって男として育てられたんだ。この学校も男として卒業する必要がある」
三国先輩が、淡淡と説明をする。
「真実を教えられたときは、僕たちもびっくりしたよ。最初は、かわった子だなとは思っていたけど」
ちょ、ちょっと、待ってよ。
こんなところに、女の子と一つ屋根の下?!
「ま、できる限り協力してやってくれ。分かってるとは思うが、彼女の秘密を知っているのは僕と、三国と
吉井君だけだからね」
じゃ、あとでとかなんとか、いいながら三国先輩と広瀬先輩は立ち去って行こうとする。
無常にも、部屋の扉を閉められて呆然としている僕に菊池さんが声をかけてきた。
「はじめまして。よろしくね。吉井君」
声も、かわいい・・・・・・。
・・・・・・じゃなくて、このこは本当にそれでいいのか?!
僕が、問いただそうとするとタイミングを見計らったかのように部屋の扉が開いた。
そこには、惡魔の表情をした広瀬先輩と三国先輩が立っている。
「そうそう、いい忘れていたけど吉井君。この寮はだいぶ老朽化している」
「壁をつつぬけて隣に声が聞こえてくることがたまにあるんだ。・・・・・・隣は、われわれの部屋だよ」
「もし、彼女の悲鳴なんかが聞こえてきたら・・・・・・」
「どうなるか、わかっているね・・・・・・?」
言いたいことだけ言って、二人は部屋の扉を閉めた。
僕が、何かするとでも思っているわけ!
失礼しちゃうな。
僕って、こうみえても純粋なんだよ!
「ね、あの菊池さん」
「英昭って読んでよ。ね?」
やさしく微笑まれると、なんだか全身から力が抜けていくようなきがする。
「じゃあ、英昭・・・・・・さん。きみ、本当にそのままでいいの?」
「え?何が?」
だから、と僕が言おうとしたとき寮内放送がかかる。
「201号室の吉井君、荷物が届いてます。至急取りに来てください」
「あ、吉井君の荷物届いたみたいだよ。僕もとりにいってあげるね」
無邪気に笑って、あっけにとられている僕の手をとって引っ張る姿は非常に、かわいい。
い、いかん。このままでは毎日が大変だ。


「ね、英昭さん」
「なあに?」
荷物も片付けて、手持ちぶたさな俺は二段ベッドの上側に寝そべりながら机の上のせた鏡を見ながら髪を櫛で梳いている英昭さんに声をかける。
「答えにくいかもしれないんだけど」
「ん?」
英昭さんは、続きを促すように僕を見上げた。
「髪の毛を切るとかして、もっと男らしくしなきゃだめなんじゃないの?男として生活するなら」
「うーん。前はそうしてたんだけど、ぼろが出ちゃうから。こうしていたほうが、ちょっと変わったやつって思われてだれも、怪しまないみたい。」
「そうなんだ・・・・・・」
僕には分からない事情があって、男として暮らしている彼女は、どんなに苦しい思いをしているのだろうか。
そういうつらさを全然見せないのは、やっぱり僕が、男だからなのかな。
黙っている僕を不思議そうにみつめていた英昭さんだが、来ていたセーターを一枚脱いで言った。
「僕、これから着替えるから」
僕はとっさに飛び起きてあわてて、部屋を出て行った。
着替え終わるまで、部屋の前の廊下で座って待っている。
もう、夜だから風呂帰りの寮生が何人も、廊下の前を歩いていった。
不意に、隣の部屋の扉が開いてパジャマ姿の広瀬先輩と三国先輩が姿を現した。
「ほう、結構まじめなのだな」
「きみみたいな、まじめな人が同室でよかった。これなら安心して任せられるね」
任せないでくれよ!


夜が明けて、食堂に向かう。
知らない人ばかりだから、自然と僕が知っている広瀬先輩と三国先輩と英昭さんとで朝食を食べることになった。
「どう、今日から授業だろう。分からないことがあったら教えてあげるから」
「あ、ありがとうございます」
まだ、不安なんだけどどうにか、学校生活送れそうだな。
クラスにいったら、当然だけど季節外れの転校生のような扱いだった。
特に話題になったのは、菊池英昭さんと同室だということだ。
「おまえ、あの菊池と同室なんだって?」
「うわ〜、うらやましい。同室にあんな可愛い子がいるなんて、パラダイスだね」
そりゃ、男子校だからたとえ男だとしても目の保養になるといいたいんだろ。
だけど・・・・・!
「いーなー。変わってほしい」
変わってくれよ!


勉強は全然分からなかったけど、クラスのみんなもいいやつだったし、女の子と同室
ということさえどうにかすれば、学校生活はまあまあ、のものがおくれていた。
そんな、ある日の午後。
僕は何気なく、トイレに向かった。
そこには、英昭さんがいて。
・・・・・・そう、英昭さんがいたんだ。
あれ?ちょっとまてよ。
何気なく手を洗って、英昭さんでていこうとするけど・・・・・・。
彼女って、女の子だったよね?
・・・・・・。
「ま〜て〜!菊池英昭〜」
「やば、バレた?」
英昭さんが、寮の廊下を思いっきり走っていく。
何が何でもつかまえて、明確させないと。
僕は、必死になって追いかけた。
「いま、しまったものもう一度だしてみやがれ!」
「うそ〜、はやい。僕だって、100M、11秒台だよ」
あと少しで、英昭さんに追いつきそうだ。女の子相手には絶対にしないけど、この際だから風になびいている長い髪を
僕は捕まえて思いっきり引っ張った。
案の定、英昭さんは立ち止まって、痛いっと悲鳴を上げた。
「菊池英昭さん?!」
僕は、英昭さんを振り返らせて壁に押し付けて、胸倉をつかんだ。
「きゃ〜っエッチーっやめて〜へんた〜い」
気の抜けるような、したったらずな悲鳴が上がる。
「瞞されないぞ」
「なーんだ、エマのやつもう、ばれてんだ」
「ばれたのは、3日目の午後か。もうちょっともつかと思ったんだけど」
「おい、だれかヒーセに連絡してこいよ」
「あ〜、おれ、五日目に賭けてたのによ〜」
僕たちの騒ぎを聞きつけたのか、寮生がわらわらと集まってきて好き勝手なことをいっている。
ヒーセ?
賭ける?
「もう、僕ひとりのたくらみじゃないよ!ヒーセだよ。僕はいわれたとおりにやってただけです」
ヒーセ・・・・・・。
広瀬先輩だな。
僕はとりあえず、英昭さんはこのままにして202号室の広瀬先輩のところにむかった。
202号室の扉をおもいっきり開け放つ。
中には、部屋の主たちと何名かの寮生が待ち構えていた。
「お〜。吉井、遅いじゃないか。入院して一ヶ月も遅れて入学してくるバカがやってくるっていうじゃないか。丁寧に歓迎してやらねば
とおもったのでな。おまえが、瞞されてたおかげで歓迎会費、がっぽりかせがせて・・・・・・」
特にそうに、いすに座って掛け金を手でもてあそんでいる広瀬先輩に無言で俺は近づいた。
有無を言わさず、そのまま殴りつける。
「うわっ広瀬を殴った」
「怖いもの知らず・・・・・」
ちくしょーっ
覚えてろよ!

この寮って、こんな変なやつらしかいないのか?
だれも、広瀬先輩の企みに反対していなかったみたいじゃないか・・・・・・。
ちくしょーっ
いつか、僕も、仕返しをしてやるっ