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SWEET&SWEET
初めての言葉を聞いたのは覚えてる
この声が特別になったのはいつからだったのか
今では忘れてしまったけど
それから間もなく 甘い言葉や、優しい口付けを受け取る
気がついて
感じて
声が胸に響く 君の声で呼ばれて
恋が目を覚ました もっと強く歌を聴かせて

荒い息をついて、女はだるそうにうつ伏せに寝た。肌がじっとり汗ばんでるが、シャワーを浴びる気にはなれない。
すぐ横で、女の体から降りた男が仰向けになって荒い息をついているのを、女は横目で確認した。
うとうとと、女がそのまままどろもうとしたときに、男がそっと優しく女の背中を抱きしめながら、女の長くて緩やかな波を打っている黒髪に顔を埋めた。
「俺もう、あんたに夢中。ねぇ、一緒に暮らそう?」
甘い声で、鳶色の髪の色をした男が囁くが、女はちらりと一瞥をくれただけで、返答しない。 男が、焦れたのか女の顔を自分のほうに向けて口付ける。
女は特に抵抗もしないで、身を任せていた。女は体をひっくり返されて、仰向きにされる。ようやく唇が離れて、男の腕の中に女は捕らえられていた。
「麗奈……ダメ?」
「うん……。ダメ……かな」
麗奈と呼ばれた女が、囁き返すと男は口を封じるかのようにもう一度、口付けを施す。長く、深い口付けに変わりお互いの唇が離れた後には、銀の橋が架かった。
「もう、駄目だったら、シャワー浴びるから、離して」
このまま、また事に及ぼうとした男を、押しとどめて自分の上から降ろさせると、女は手近にあった、シャツを着込んでベッドから降りた。 そのままシャワー室にむかって、歩いていこうとしたときに麗奈の腕を男がつかんだ。
「いい加減にしてよ、和哉」
少し、麗奈は苛立ったような声を出した。 麗奈が怒っているのをさして気にもせず、和哉は言葉を続けた。
「一緒に入る?」
「ばか……」
ほんのり頬を赤くして、恥ずかしそうに麗奈は答えた。いままで、人には言えないような狂態を繰り返してきているのに、いまだに麗奈は、何所か純粋でうぶな娘のような態度を取ることがあった。
それが、和哉のお気に入りでもあった。 和哉はくすくすと笑って、サイドテーブルの上の煙草を一本取り出して、火をつける。麗奈はつばめのように身を翻してシャワー室に入った。

麗奈は、シャワー室から出てくるなりいそいそと服を着込み始めた。和哉としてはこれから、湯上がりを楽しもうとしていたのに当てが外れたと思ってしまう。
「なんで、服きるの?」
「帰るから」
「ええっ今日も、泊まっていってくれるんじゃないの?!」
「だって、私、2泊はしない主義だもん」
麗奈は鏡に映る自分の姿を点検しながら、答える。振り替えると、ベッドの上で半分泣きそうな顔で、和哉が拗ねている。
「じゃ、そういうことだから。またね」
拗ねている和哉に、大輪の花のような笑顔を見せて麗奈は和哉の部屋を後にした。
手元の時計では17:00。 昼間散々睦みあったのに、まだ、足りない。
行き場の無い思いを抱えて、和哉はベッドの上で体育座りをしていた。 無意識のうちにサイドテーブルの上の携帯電話に手が伸びていた。



「しっかし、おまえが急にうちに泊まりに来たいだなんて、珍しいじゃねぇか」
両手にビールの入ったグラスを持って、広瀬洋一が笑いながら言った。
「別に、……部屋に一人でいたくなかったんだ」
「ははぁん……」
広瀬は、和哉にグラスを渡しながら何もかも分かったかのように、にやりと笑った。
「なんだよ」
「彼女と喧嘩でもしたな?!」
鬼の首取ったりと、したり顔で広瀬は言った。
「違うよ……違う……けど」
「なんでぇ。ちげぇのか。俺はてっきり、彼女の浮気を……」
広瀬は言いながら、後悔していた。和哉の顔色が真っ青に変わって広瀬を睨み付けていたからだ。
こいつ、こんなに執着のある奴だったッけ? 自分は、浮気も二股も平気でやっている野郎なのに。
「浮気?麗奈が、浮気してるのか?!」
「まあ、落ち着けよ」
和哉は、グラスに入っているビールを一気に仰ぐと落ち着いていられるかっと叫んだ。
「まあ、俺も遠目だったしよ。麗奈かどうかはわかんねぇんだけど。ほら、あの娘、目立つだろう?すっごい似ていた娘が、エリート商社マンと並んでシティーホテルに入っていくのを見たんだよ。夜だぜ?わざわざ、入るとおもうか?」
和哉は、信じられない、み間違えだと繰り返し呟いていたが、釈然としない樣子で次の日、自分の部屋に帰っていった。


それから、ごたごたもあって一週間ぶりに麗奈が和哉の部屋に遊びに来た。いつも、和哉と会うときのように普段は着ないワンピースを着ていた。
「どうしたの?和哉」
恋人の樣子が、いつもと違うので彼女は心配そうに声をかけたが、和哉から帰ってくるのは、どうでもいいような生返事ばかりだ。 いつもだと、猫のように寄り添ってきてべったりとくっついてくるのに、今日は何所かよそよそしい。麗奈の顔を見て話そうともしない。
和哉にしてみれば、麗奈が浮気しているのかしていないのかが、結局はっきりしたことがわからなくて、もやもやとした氣持ちを持ったままなのだ。 見知らぬ男に嫉妬している自分が居て、どうしたらいいのかが分からない。 自分を裏切ったかもしれない、麗奈が憎い。 そんな風に思っている自分が、もっと嫌いだった。
「……疲れているの?」
麗奈が聴いても、返事はない。
和哉は、ただ、ソファに座ってぼんやりと窓の外を眺めている。
「私が、居ないほうがいい?」
麗奈は悲しそうにそっと呟く。その声は、あまりにも小さくて和哉のもとには届かない。
いつもしているように、和哉にお茶を入れてソファの前のテーブルに置いた。 何を話すでもなく朦朧としているだけ。
「和哉」
麗奈が呼んでも、和哉はこちらを見ない。 麗奈は、泣きそうになるのを堪えて立ち上がって、コートを羽織った。 声が、震えそうになるのを極力押さえながら、抑揚がおかしくならないように、きわめてつまらなそうに冷静に話しているように神経を集中した。
「私居ないほうがいいみたいね。さようなら。」
今まで、和哉の部屋を去るときにも一度も口にしたことの無い別れの言葉。
きっと、ここの部屋には来ることもないだろうと麗奈は思った。 いつか、何も無くても和哉に捨てられる日が来ると、初めて彼にこの部屋に連れてこられたときに覚悟していた。 数多い、昔の女の一人に加わっただけ。 麗奈は、自嘲気味に笑い身を翻してドアのところまで行った。
「待って」
「何?」
「麗奈は、男なら誰でも良かったの?」
なに……?!
「俺じゃなくても、男なら誰でも。その奇麗な顔と体で誘えば、誰だって……!」
血を吐くような、和哉の訴えに麗奈は、目の前がくらくらした。 手近にあった、クッションを和哉に投げつけて感情の赴くままに叫んだ。
「いままで、いったい私の何を見てきたの?」
アナタガ、スキダッテイッタカラ
カミガタモ
ワンピースモ
クツモ
クチベニノイロモ
ツメノイロモ
アナタノイロニソマッタノニ
「最低!!」
コートのポケットに入っていた、和哉の部屋の鍵を和哉にめがけて投げつけた。和哉の肩に当たり、和哉の大きな手の中に落ちた。
呆然としている、和哉を一瞥して麗奈は部屋を走り出た。 なげられたクッションから、羽がふわふわと舞い上がって落ちてきた。
あの時、彼女が俺を見つけて……。
違う、俺が、彼女を見つけて、俺が見つけて、俺のものにしたんだ。
どうしても、ほしかったから。
「あ〜あ、このクッション……麗奈、お気に入りだったんだよね。」
破れたクッションを抱きしめて、和哉は呟いた。このクッションを見つけたときの麗奈の笑顔がありありと思い出せる。 その頃の麗奈はまだ、髪の毛は短くて、化粧もしてなくて。 あれから、しばらくして髪の毛は長くなって、奇麗に化粧をはじめた……。 思った通りの美人で、ものすごく、好みのタイプで。 クッションを横において、慌てて和哉は部屋を出ていった。

「麗奈、どこにいるんだ……?」
まだ、近くに居てほしい。 今日、彼女が帰るといったとき、麗奈が泣きそうなのは分かっていたんだ。
強がって、泣きたいのを堪えて、なんでも我慢してしまうのは、初めて会ったときから変わっていない。 たまに見せる、寂しそうな笑顔が泣きたいのを堪えているときだと分かったのは、だいぶたってからだ。
きょろきょろしながら、和哉は駅のほうに走っていく。 ようやく前方に、和哉があげた赤いレザーコートを着た女が歩いていた。
「麗奈」
名前を呼んで、後ろから抱きしめた。 麗奈のいつもつけている香水のにおいが、鼻孔に満たされる。
「やだ、離してよ」
「すまない、俺が、悪かった。」
「本当に、あなたが悪い」
「ごめん、本当に、俺。どうにかしてた」
麗奈を、和哉は自分のほうに向き直らせて唇を合わせた。


「……で、結局嫉妬の原因は何だったわけ?」
「商社マン風の男とシティーホテルに……」
麗奈は、上を見上げて天井を見ている。 何かが見えるのかと思い、和哉もつられて、上を見上げる。
「ああ、そういえば行ったわ、ホテル」
「そ……そんなぁ。はっきりと、麗奈……」
和哉は、涙目でクッションを抱きしめて拗ねている。 クスクス笑いながら、麗奈は言った。
「あれね、弟。私と違って出来がいいの。エリート商社マンなの。その日は家族とホテルで食事してたのよ」
「なあんだ……」
「そんなことを誤解してたの?」
「自分でも気がつかなかった。その、麗奈のことを。なんて言うか……」
麗奈はまだ、くすくす笑いながら和哉の隣りに座って、頬にキスをする。
「私は知ってた」









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